べテラン薬剤師の権力

病院で垣間見た大人の事情。

私の祖父の話です。20年前、祖父は脳出血で市内の総合病院に救急搬送されました。血圧が200を超えたりと一昼夜生死をさまよった後、意識不明のまま入院。医師から「覚悟してください」と言われて、思いのほか心臓が強かったようで、1か月がすぎました。

すると、意識はないが病状が安定したという理由で食事も口からとれない・歩けない(排泄は紙おむつ)という状態で、6人部屋に移され、高齢者という理由で入院3か月後には退院の打診がありましたが、事態は急転しました。

祖父の友人の子供が当時、県議会議員をしており、総合病院の院長と顔なじみで、祖父が入院したときいた議員がお見舞いにきてくれ、院長に長期入院の依頼をしてくれたのです。

そのすぐあと、入院してから一度も顔を見たことない院長と薬剤師長があわてて?病室を訪れたことを両親から聞いた私は、(大人ってきたないなあ)と子供心に思ったことを記憶しています。それから無事に病院から追い出されることなく、1年入院することができました。

祖父が入院中には、同じく退院を打診され、在宅や老人保健施設で数か月後に亡くなったと聞くたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。しかし、今のように介護サービスがない時代に家族だけで介護をしていたら、家族全員が倒れることが目に見えていました。

入院中は病室担当の薬剤師の連携がとれておらず、いろいろ家族に注文をつけられて嫌な思いをしましたが、返事したりできないものの、人の声に反応し始めた祖父のお気に入りの若い薬剤師2名の方には大変お世話になりました。

祖父もその方たちが丁寧に話しかけ看護してくださると嫌がったり拒否することもなく穏やかでした。そうしているうちに在宅でのサービスが受けられる体制が整い、入院してから1年後、退院することになりました。1年の間に、車椅子に座ることができ、人の声に反応できるようになっていたので、病室からナースステーション前のエレベーターに父が祖父が乗った車椅子を押して、ナースステーションに向かって乗りました。

薬剤師数名が手を振ったり「退院おめでとう」「家に帰れてよかったね」と声をかけたり、バイバイと手を振ってくれていました。父以外の家族や親せきは薬剤師や医師に頭を下げお礼をしていると、祖父が今まで、何も動かさなかった右腕を少し上げて、手を振る薬剤師にこたえるように手を振ったのです。「バイバイ」と。薬剤師も今までしたことのない反応にびっくりし、ざわつき、家族や親せきは(病院が本当に嫌だったんだ)と心に思いながら病院を去りました。意識不明でも、聞こえる・見える。そして、性格もあるかもしれませんが、みんなを驚かせることもできる。

私の祖父は大きな声に反応できたからもしれませんが、完全看護とはいえ、やはり家族の声や住み慣れた自宅の匂いがうれしかったのかもしれません。

その後、退院時と変わらない状態ではありましたが、祖父は在宅で15年、介護を受け、一生を終えました。祖父のお気に入りだった2名の新人薬剤師は、今でも総合病院に勤めていますが、師長を務めるベテランです。薬剤師も60歳を超えてくるとかなりの権力を持ちますね。薬剤師求人60歳以上で探してみてください。